「ラインハルト様…失礼致します…」
「マイか、何か用でも…。ん、どうしたのだその髪型は…?」
「……」
 自室で執政作業を行っていたラインハルトの元に、美しく長い髪を切り、旅支度を済ませたマイが現れた。
「マイ、どうしたのその髪は!?」
 ラインハルトの執政を手伝っていたサユリは、そのマイの姿を見て、手元に持っていた資料をばさばさと落とした。
「申し訳ありません…マスカレイドを奪われてしまいました…。本来ならば自害してお詫びする所ですが…、どうか取り戻す機会を……」
「その髪は決意の証か…。良かろう、自らの不始末、その手で清算せよ」
 髪は女性にとって命の次に大切なものだという。その髪を自ら切ったのだ、その決意の固さを見て、ラインハルトはマイの失態を責めずに自ら汚名を返上する事を承諾した。
「但し、マスカレイドを取り戻すまでローエングラムに戻る事は許さん」
「お兄様、そんな…」
 マイに友情を感じているサユリは、ラインハルトの処断に厳しさを感じ、その処断を素直に受け取る事が出来なかった。そして何より親友として頼りにしていたマイ自身と離れ離れになるのが、サユリには堪え難かった。
「その処断、謹んでお受け取り致します…」
 だが当のマイの方はその処断を素直に受け止め、深々とラインハルトに礼をし、ラインハルトの自室から立ち去ろうとした。
「待て。余の配下ではキルヒアイスの次に腕が立つお前から盗んだのだ。一体どのような奇計を持ち入れられたのだ?」
「それは……」
 立ち去ろうとしたマイは頑なに口を閉じ、一言も話さなかった。立場上は話しておくべきなのだが、サユリのいる前で自分がキルヒアイスに好意を抱いていた事が原因などとは言える筈もなかった。
 心優しいサユリのことだ、もし自分がジークを好きだという事を知ってしまったら、自分に対する遠慮から逆に私とジークとの寄りを深めようとするかもしれない。でもそれはサユリ自身の心を傷付ける事になるし、何よりそんなサユリを自分自身見たくない。そうマイは心の中で深く思った。
「答えられぬなら良い。道中気を付けるように」
「はい……」
 詳しい事情を問い詰めなかったラインハルトの寛容な態度に感謝しながら、マイはラインハルトの自室を後にした。そしてその足で奪われたマスカレイドを取り戻す旅へと旅立って行った。
「……。お兄様、一生のお願いです、サユリに…」
「お前の言いたい事は分かる。マイの後を追いたいのだな…」
「はい…サユリにマイの後を追わせて下さい!」
 ラインハルトに心を見透かされたことにサユリは一瞬途惑った。しかし臆せずに、自分のマイに対する想いを形にするように、その胸の内の想いを強く言い放った。
「ならん!サユリ、自分の立場を考えるのだ。余の血縁に当たる者が配下の汚名返上の補佐を目的に、宮中の外はおろか領土外に出るのを許可出来ると思っているのか」
「お兄様!」
「サユリ、キルヒアイスが新無憂宮ノイエ・サンスーシーを出て行く時、俺はその後を追い駆けたか?」
「あっ…」
 ラインハルトの言にサユリははっとした。3ヶ月前、キルヒアイスが新無憂宮ノイエ・サンスーシーを出て行った時、誰よりもキルヒアイスを慕っていたラインハルトはその後を追わなかった。そうだ、今の自分は正にあの時のお兄様なのだと…。
「そういう事だ。もしお前が本当にマイの事を友として慕っているならば、ここは動かず友の帰りを待っているのがマイ自身の為であり、何よりお前自身の為だ」
「はい……」
 ラインハルトの言葉に、サユリは返す言葉がなかった。あの時のお兄様も今の自分と同じように、ジーク様を追い駆けたくて追い駆けたくて仕方がなかったに違いない。でも自分の立場を考えて、その想いを必死に堪えて、いつか帰って来る日をずっと待ち続けていたのだろう。ならば自分もそれに習わなくてはならないとサユリは思った。
(本当は後を追わせてやりたい所なのだが……)
 一方、サユリに待ち続ける事を推したラインハルトの心中は複雑だった。己の身分や立場に遮られ、友の後すら追えぬ辛さはラインハルトが一番よく知っていた。そんな辛い思いを妹のサユリにはさせたくない。しかし、消息を絶ったブラウンシュヴァイクの行方が分からぬ現状では、下手にサユリを宮殿の外に出させるのは危険が大きい。
 口では自分の立場を理解しろと言ったものの、その実は妹を大切に思うからこその言動であった。
(…さて、何よりブラウンシュヴァイクの件を完全に解決するのが先決だな…。その後ならば、サユリの意志に全て委ねるのも悪くはないな……)



SaGa−7「ハイネセンへ」


「ジーク様、ジーク様!」
「サユリ様、どうか為されましたか?」
 出立の準備をしていたキルヒアイスの元に、血相を変えたサユリが現れた。その落ち付きのない雰囲気に、キルヒアイスは何か事が起きている事を察した。
「実は、マイが何者かにマスカレイドを奪われて…それで自ら取り戻すと宮殿を出ていったのです!」
「…!…そうですか…。それでサユリ様がそれを私にお伝えに来たのは、他に何か理由があるからですね」
 サユリの一言に一瞬驚いたが、キルヒアイスはすぐに落ち着きを取り戻し、いつもの礼節な態度でサユリに話し掛けた。
「ええ。マイがこれから何処に向かうかは、サユリには分かりません…。ですが、もし、もしマイがハイネセンへ現れた時には、サユリがマイの帰りをずっと待ち続けている事を、ジーク様のお口からお伝え願えないでしょうか?お願いします!!」
「…分かりました。もしマイ様がハイネセンへ現れた時にはサユリ様の言伝、確かにお伝え致します」
「ジーク様…ありがとうございます」
 自分の願いを聞き入れてくれたキルヒアイスに深々と感謝の気持ちを精一杯込めたお辞儀をし、サユリはキルヒアイスの元を立ち去った。
 本当は宮殿から出る事の許されない自分に代わってマイの後を追って欲しいと言いたかった。だけど、ジーク様にはジーク様のやるべき事がある…。だからマイの後を追って欲しいなど頼む訳には行かない。だからせめてマイがジーク様の元に現れることがあるならば、その時に自分の気持ちを伝えて欲しいとお願いするのが精一杯だとサユリは思った。



「マスター…、この街に小剣を持った男が立ち寄ったって話はある…?」
「いや…そんな話は聞いていないが…」
「そう…ありがとう……」
 多くの者達が己の住まう場所へ帰った時刻、ここミュルスの酒場では、住まう場所に帰らぬ者共が夜の宴に浸っていた。その酒場で、住まう場所に戻ることを許されぬマイは情報収集に励んでいた。
(この街には立ち寄っていないのか…それとも……)
   しかし有力な情報は掴めず、マイは次第に焦燥感に駆られていった。
「何かを探しているようだが、そんなに焦っては見つかるものも見つからぬぞ?」
「…!」
 酒場で情報収集に励んでいると突然声を掛けられ、マイは咄嗟に剣を構える格好をした。しかしマスカレイドの代わりになる剣を携えていなかったマイの手は、ただ空を掴むだけだった。
「案ずるな。私は只の旅の吟遊詩人だ」
 声の聞こえた方向に目を向けると、その声の主の男は見慣れぬ異国の地の格好ではあったが、確かに詩人が使うような楽器を手に携えていた。もっとも、その楽器すら見慣れぬ異国の地の楽器であり、とても男が口で言うような吟遊詩人には見えなかった。
(この男…まったく気配を感じなかった……)
 しかしマイは、その男から流れ出る気配の感じない隙のない雰囲気に、目の前の男が只者ではない事を直感的に感じていた。そしてよくよく男の方に目をやると、腰に三日月刀より長身の鞘に納まった曲刀が飾られているのが確認出来た。
 その風貌と雰囲気から、マイはこの男がキルヒアイスと互角かそれ以上の剣の使い手である事を悟った。
「さて、見た所剣の使い手のようだが、肝心の腰には剣が飾られておらぬな。大方腰に掲げた剣を盗まれたという所であるな」
 その男が剣の使い手である事を悟ったからか、マイは素直にこくりと頷いた。そしてその詩人を称する男に、小剣を持った男を見掛けたを訊ねた。
「ふむ…。そういえば先刻、ハイネセン行きの船に立派な小剣を携えた怪しげな男が乗り込んだのを見掛けたな」
「ハイネセン…。ありがとう……」
 その男に軽く礼をし、マイは駆け足で港の方へと向かって行った。
 その足取りを取るマイの心中は複雑だった。思えばマスカレイドが奪われたのは自分のキルヒアイスに対する想いが原因だった。そしてキルヒアイスが現在住んでいるハイネセンへ赴くのは、キルヒアイスの幻影を追いかけてるかのようだった。
(それにしても…ハイネセンに着いたなら代わりの武器を揃えなきゃ…)
 詩人を自称する男の声に反応し、咄嗟に自分が本能的に剣を抜く動作をしたのをマイは思い起こした。自分は術も使えるのだから代わりの剣などいらないと思っていた。だが先程の動作に自然に表れたように、やはり自分には剣が必要なのだと、マイは実感した。
 そしてマイは、その日の最終便でハイネセンへと向かって行った。



「ふ〜、着いた着いた」
 翌朝、キルヒアイスと共にハイネセンへ赴く事を決意したユウイチは、重い荷物を抱えミュルスの港へと現れた。
「わぁ〜、港のずっと先に海が広がっています〜」
 ユウイチと行動を共にする事にしたシオリは、港の彼方に広がる大海原を目に、これから自分が羽ばたく世界に感嘆の声を上げた。
「ユウイチ殿、申し訳ないのですが、船着場に向かう前に一度酒場へ向かおうと思ってるのですが」
 ユウイチ達に同行をお願いしたキルヒアイスは、ミュルスについて早々酒場へ向かう事を打ち明けた。
「俺は別に構いませんよ。船旅に出る前に一服したい所ですし」
「私も構わないわよ」
 そのキルヒアイスの提案を、ユウイチとカオリは快く受け入れた。
「そうですか。では今から酒場へ向かいましょう」
「あのジークさん、私はちょっとここでもう少し港を見ていたいのですが…」
 そんな中、一人だけシオリが申し訳なさそうに自らの考えを呟いた。
「あっ、でもほんの少しだけ眺めましたなら、私も酒場に向かいますから」
「分かりました。ではごゆっくり眺めていて下さいね」
 一言返事でキルヒアイスは、シオリの行動を承認した。
「わがまま言って申し訳ありません。ありがとうございます」
 キルヒアイスに一礼し酒場に向かうのを見送った後、シオリはその場に留まり暫し港の方へ目を傾けた。
「わ〜、いろんな船が止まってる〜。ジュンさんがお姉ちゃんをデートに誘おうとしたのも分かるな〜」
 ローエングラム領の西方に位置するミュルスは古くから港町として栄え、現在は地元の大手海運業のミュルス海運を中心とした商業活動が盛んな街である。その街の中心である港は、多くの人々の行き交いで賑わっていた。シノンの山奥からあまり外に出た事のなかったシオリには、その活気の何もかもが驚きと新鮮さに満ち溢れたものだった。
「つ〜かまえた!」
「えっ!?」
 港の賑わいに魅入ってると、突然誰かに後ろから抱き付かれ、シオリは途惑った。
「子供…?」
 シオリが後ろを振り返ると、その背中に抱き付いていたのは自分より2〜3歳年下の女の子であった。
「あ、あの〜私に何か用でも…?」
「私と遊ぼっ!」
「えっ?えっ?」
 突然遊ぼうと言い出す少女に、シオリは途惑うばかりだった。
「遊ぼうよ〜」
「え、え〜と、ごめんなさい…。私これから旅に出なくちゃならなくて……」
「あう〜っ…」
 残念そうに俯く少女に、シオリは申し訳ないと思った。対応に困り果て咄嗟に言い訳めいた理由を言ったが、旅に出るのは本当だし、これ以上お姉ちゃん達を待たせる訳には行かないと。
 そう思ったからこそ少女の願いを聞き入れなかったのだが、それでも心優しいシオリは少女に対し申し訳ないと思ったのであった。
「ごめんね。急いでいなきゃ別に遊んでも良かったんだけれど…」
「分かった。私も貴方に付いてく。これなら文句ないでしょ!」
「え…ええ〜!!」
 予想もしなかった少女の発想の転換的発言に、シオリは思わず大声で驚いた。
「大丈夫。お金ならいっぱい持ってるから」
「お金とかそういう問題じゃなくて…お家の人が心配するでしょ?」
「ふんだ!家の人なんか誰も私の事心配してないわよ!」
「えっ…それはどういう……」
 感情的に反応する少女の姿を見て、シオリはある姿を想像した。ひょっとしたらこの娘は家の人と喧嘩でもして家出したのではないだろうかと。
「えっ?…え〜っと…。私旅に出てるのよ!だから、また他の所に移った所で、私の家の人は心配しないと思うのよ」
「ふ〜ん。分かったわ…じゃあ付いて来てもいいわよ」
「わぁ〜い、やった〜!」
 元気にはしゃぐ少女を見て、シオリは思った。口では旅に出てると言ったけれど、そのぎこちない動作は何か隠しているようにも思えた。もしかしたなら本当に家出していて、それを他人に知られたくないから必死で隠し通そうとしているのかもしれない。だけど、この娘が自分の意志で一人立ちしているのには変わりがない。何て立派なんだろう…、自分は今でもこうしてお姉ちゃんと行動しているというのに……。
 自分より年下の娘でもこうやって一人で頑張っているんだ、その姿を立派だと思うなら、この娘の意志を尊重してあげなくてはならない。そう思い、シオリは深い事情を訊かずに少女が付いてくることを了承した。



「すみません、昨晩この酒場に黒髪の物静かな女性は立ち寄りましたか?」
「う〜ん…何せ客の出入りが激しいからな…。立ち寄ったかもしれんがイチイチ覚えているものでもないな」
「仮に立ち寄ったならば剣の事とか訊いていたと思います。その辺りを含めて、昨晩この酒場に立ち寄った人を思い出せないものでしょうか…?」
 その頃キルヒアイスは、酒場のマスターにマイの消息を訊ねていた。ローエングラムから他方に出る経路は、オーディンへ赴く陸路とミュルスからの海路の二通りしかない。マイ様がこの街に立ち寄る可能性は割合からいって50%。そしてマスカレイドの消息を追っているなら人々の行き交う酒場で情報収集をした可能性は高い。そう思い、キルヒアイスは酒場のマスターに昨晩の人の出入りを訊ねていたのだった。
「ジークさん粘るわね」
「ああ。何でもサユリ様の言伝を伝える為だとか」
 キルヒアイスがマスターに訊ねている間、ユウイチとカオリの二人は店の片隅で一服していた。
「そういやジュンは今日にはもう新無憂宮ノイエ・サンスーシーに向かうって話しだよな」
「ええ。後押しするような台詞言っちゃったけど、ちゃんと任務が遂行出来るか心配ね…」
「おっ、カオリ、なんだかんだいってジュンに気があるんじゃないか?」
 溜息をついてジュンを心配するカオリに、ユウイチがけしかけるような台詞を吐いた。
「そ、そんな事ないわよ!ただ、私は幼馴染みとして心配しているだけで…」
 そのけしかけるユウイチに、カオリは少しぎこちない反応をした。その動作を、これはカオリもまんざらじゃないなと、にやにやしながら眺めていた。
「ユウイチさん、お姉ちゃん、お待たせしました」
「あらシオリ結構ゆっくり眺めてたのね…って…」
「誰だぁ、その後ろの娘は?」
 酒場に入って来たシオリが連れて来た少女に、ユウイチとカオリは同時に驚きの声をあげた。
「え…え〜っと…港を見てたら…その…一緒に旅に付いて来るって言って…あの……」
「それで断わり切れなくて連れて来って事ね…。まったく、いかにもシオリらしいわね…」
 幼い少女の手玉に取られたシオリに呆れながらも、それがシオリの良さなのだと、カオリは軽い笑みを浮かべた。
「ふ〜ん、この人達が一緒にハイネセンへ旅立つ人達ね。まっ、旅は道連れってことでヨロシク…」
「ぽかっ!」
「あ、あう〜。こらぁ〜、いきなり何するのよーっ!」
 もじもじと語るシオリを尻目に元気良く話を進める少女を、ユウイチはいきなり殴り付けた。
「まったく、随分と生意気なガキだな。お前みたいな奴は親に躾し直されてから出直して来るんだな」
「何よ〜親は関係ないでしょ〜」
「ユウイチさん、この娘一人旅に出ててそれで一緒に行こうって…」
 ユウイチと少女との空気の流れが思わしくないと思ったシオリは、咄嗟に少女の肩を持つような取り止めをした。
「一人旅か…。まあ、シオリより年下っぽいし、その勇気は素直に認めてやるよ…。けどな、お前みたいな何処の馬の骨とも分からないガキを連れて行く余裕はない」
「う〜言わせておけば〜!」
「ポロロン…♪」
「えっ…」
 二人がいがみ合っていた間に突如不思議な音色が流れ出、その音色に二人は魅入られた。
「いい曲ですね。一体誰が弾いているのでしょうか?」
 その不思議な音色は店全体に響き辺り、その音色は自然とキルヒアイスの耳にも入った。
「昨日から家の店に居座り続けている自称吟詠詩人の男だよ」
「吟詠詩人ですか…」
「ん…そういえば昨日の夜あの詩人と話をしていた女性…君の探している女性とイメージが被るような…」
「本当ですか!。ありがとうございました」
 マスターに深々と礼をし、キルヒアイスは詩人の方へ近付いて行った。



「ふう…折角心地良く眠っておったというのに…」
 手に持った東国の楽器を弾き終えた詩人は、快眠を妨げられた事に多少なりとも不快感を感じていた。
「すみません、気持ち良く眠っていた所を起こしてしまって…。でも、二人を静めさせて下さってありがとうございました」
 シオリはその詩人の前に進み、ユウイチと少女の二人の間に流れる空気を和らげてくれた事に感謝の意を表わした。
「いやいや、君が謝る必要はない。さて、周りも静かになった事だし、また一眠りでもするか」
「あの、申し訳ありませんが、昨晩剣を探している黒髪の物静かな女性とお話になられたでしょうか?」
 詩人が再び眠りに付こうとした所に、今度はキルヒアイスが近付き、詩人に訊ねた。
「私はあまり人とは話さんのだが、確かに己の刀を探しておった剣客風の黒髪の女子おなごと話したな」
「剣客…確か異国の地の言葉で剣術使いを表わす筈…ありがとうございます。確信は持てませんが私が行方を探している女性の可能性があります。それでその方はどちらに向かいましたか?」
「船に乗った所まで見ておらぬからな。申し訳ないが、何処に行ったかの確証は出来ぬな」
「そうですか…。何はともあれ貴重な情報ありがとうございました」
 そう深々と詩人に礼をし、キルヒアイスはユウイチ達の元へ向かった。
「あっ、では私もこれで」
 キルヒアイスが向かったのに続き、シオリももう一度深い礼をしユウイチ達の元へ戻って行った。
「ユウイチ殿、カオリ殿お待たせしました。と、そちらの方は…?」
「シオリに勝手に付いて来た女の子です。名前は分かりませんがね」
「あっ…そういえば私もまだ名前を聞いていません…」
 ユウイチ達の元に戻って来たシオリは、名前も聞かずに少女を連れて来た自分の行為にちょっぴり恥ずかしさを感じた。
「私はマコトって言うのよ。ヨロシクね」
「マコト…。何処かで聞いた名前ですね…」
 自ら進んで自己紹介をしたマコトの名に、キルヒアイスは首を傾げた。
「他の3人は会話で名前が分かったし…。そこの優しそうな長身のお兄さんは何て名前なの?」
「私ですか。私はジークフリード=キルヒアイスと申します」
「ジークフリード…あっ…!」
 キルヒアイスの名前を聞いた瞬間、マコトは一瞬途惑いの動作を見せた。
「マコト…。成程…道理で聞いたことのある名前だと思いましたら…」
 そのマコトの一瞬の途惑いをキルヒアイスは見逃さず、マコトが自分の知っている人間である事を理解した。
「ジークさん。もしかして知り合いなんですか?」
「ええ。まあそんな所です」
「ジークさんの知り合いなら一緒に旅立っても大丈夫ね」
「まあ、今更一人くらい増えた所で旅に支障はきたさないか…」
 こうして一向はマコトという新たな旅仲間を加え、一路ハイネセンへと向かって行った。



(…あの娘の目…ユリアンと同じ目をしておるな……)
 キルヒアイス等が立ち去った後、詩人はそんな事を思いながら酒場から出た。
「ようやく見つけたぞ。昨晩我等の行動を覗き見してたのは貴様だな?」
 酒場から出た直後、詩人は突然数人の黒いレース状の布を頭から被った男達に囲まれた。
「如何にも。神王教団風情が聖王遺物を運び行ってたのが気になったのでな。それを使って貴殿等は、未だ所在さえ掴めておらぬ神王の権威を誇示するつもりであるのか?」
「我等の神王様を侮辱するとは…生かしておく訳には行かん!」
「おっと、抵抗はせぬから命位は見逃してもらいたいものだな…」
「ぐっ…止むをえん。捕えて例の洞窟に監禁するぞ!」
 詩人から感じる圧倒的な気迫に気圧され、黒いレースを来た男共は殺すのを断念し、監禁する為に詩人を囲い連れ去って行った。


…To Be Continued

※後書き

ようやく出て来たマコピー。これでKanon勢で出ていないのは水瀬親子と美汐だけになりますね。ちなみに真琴の演じる役は構想段階から大体決まっておりました。原作で何かと家出少女扱いを受けていた真琴ですが、ロマカノではその設定を利用し、本当の家出少女の役を演じております。
 さて、やたらに存在感のある詩人(自称)ですが、正体は今の所不明です(笑)。誰が演じているかは次回辺りのお楽しみに。まあ、ヒントを述べるなら、銀英伝キャラでなくて原作はそれ程強くなかったりするという感じです。
 少し短いですが、今回の後書きはここまで。では次回またお会い致しましょう〜。

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